Daily Archives: 2010年1月25日

津山事件: 中村一夫『自殺―精神病理学的考察』

掲題の本を読みました。

感想。

「参りました」

津山事件に対する「愛」では人後に落ちるものではないと自負していましたが、この本の著者には負けました。それほど凄い本です。津山事件について書かれているのは本の中の1つの章で、全体で200ページ弱のこの本の中で40ページ程度だけですが、そこに著者の津山事件と都井睦雄に対する想いがぎっしり詰め込まれています。この本のオリジナルは1963年に出版されたものとのことですので、筑波本よりも20年近く前ということになります。

例えば、津山事件と都井睦雄について採り上げた章の冒頭には年表が出ています。
この年表は『津山事件報告書』にも出ていないもので、著者が独自に編集したものと思われます。その内容も「事実」だけを過不足なく採り上げており、ある意味で今後の津山事件研究のリファレンスは筑波本よりもこの本にするべきでないか、という気にすらさせられます。

著者はかなりの現地取材もしています。1960年代前半であり、睦雄を診察したことのある只友医院の院長も当時まだご存命で、直接話をして医師同士として意見交換しています。さらに、祖父が亡くなったのが大正7年7月であることにも言及しており、これも報告書には出ていない、現地へ墓を見に行かないと得られない情報です。そういう、さらっと書いてあることがいちいち深い本です。

新幹線もない、東名高速道路も中国縦貫道もない、東京から現地に行くだけでまる1日、下手をすると片道だけで2日かかるような時代に、専門外のことでこれだけの調査をする。そこに著者の津山事件に対する「愛」が感じられます。

もちろん、本題である睦雄の精神分析も頷かされるものがあります。

このような本があったことを知らずにいた自分の不明を恥じます。著者の中村一夫氏の名前が一般的すぎて、どういう経歴の方かネット検索だけだとよくわからないのですが、もしご存命であれば是非一度お会いしてみたい方です。

(2010年1月26日追記)
中村一夫氏について、この本の奥付には著者紹介が何も書かれていませんが、オリジナルである紀伊国屋新書版(1963年9月30日初版)の奥付によると下記の通りです。

1916年埼玉県生まれ。東北大学医学部卒。東京大学医学部精神医学教室。

1969年に出版された『日本の犯罪学』に論文を寄稿しており、その時には所属が「中村病院」となっていますので、大学をやめて開業された(あるいは親の病院を継いだ)ようです。ただ、埼玉県内に精神科専門の中村病院という病院があるので電話で問い合わせてみましたが、中村一夫なる人物には心当たりはないとのことです。

それと、復刻版がアマゾンで18,000円とかの「コレクター価格」のものしかないようなので、旧版のリンクも貼っておきます。内容はどれも一緒です。

(2011年1月12日追記)
その後の調査で、中村一夫氏の「中村病院」は現在も埼玉県内にある中村病院とは別物であることが判明しました。詳しくはこちらのエントリをご参照ください。