その他: 冤罪は誰が作るのか その2

yomiuri-911202読売新聞 平成3年12月2日付朝刊

次に、読売新聞です。

  • “ミクロの捜査”1年半
  • ロリコン趣味の45歳
  • この「週末の隠れ家」には、少女を扱ったアダルトビデオやポルノ雑誌があるといい、菅家容疑者の少女趣味を満たすアジトとなったらしい

しかし、この「ロリコン趣味」「少女趣味を満たすアジト」というのは、根拠の全くない捏造報道でした。

yomiuri-911203読売新聞 平成3年12月3日付朝刊

翌日の3日付で、菅家さんが借りていた家には

雑誌類を含め、ロリコン趣味を思わせる内容のものはなかった

という記事が小さく報じられています。しかし、前日の2日付で「ロリコン趣味」「少女趣味を満たすアジト」などという偏見に充ち満ちた捏造を報道したことについては訂正すら掲載されていません。
逆に、3日付記事の見出しは

自宅からビデオなど押収

であり、普通の読者であれば「ああ、今度逮捕された男はロリコンおやじで、自宅からロリビデオも押収されたんだ」という印象を受けるでしょう。

ちなみに、上の新聞記事には、今回ブログ炎上した当時の県警刑事部長(捜査本部長)さんも登場しています

今回の件を受けて、「だから世間知らずの裁判官は…」とか「裁判員制度なら違ったかもしれない」という意見もあるようです。しかし、断言しても構いませんが、裁判員制度があったとしてもまず間違いなく菅家さんは有罪(冤罪)になったと思います。
こういうセンセーショナルな事件が起きた時に警察の発表を無批判・無検証で、時には誇張や捏造まで交えて報道するマスコミと、そのマスコミによって誘導された得体の知れない「世論」こそが、冤罪を生み出す原動力であるからです。
映画「黒い潮」にあった言葉が、今こそ胸にしみます。

そこには無責任な、興味本位の記事だけが、大きくあるいは小さく並んでいた。そしてその文字は、真実とは遙かに遠い憶測の羅列であった。(中略)それは、数知れぬ目が形成している、真実とは微塵も関係のない、そのくせ真実を押し包み、押し流してしまう、厚顔なドス黒い潮(うしお)である。

「冤罪は誰が作るのか」という問いのまず第一の答えが警察・検察であり、当時の捜査担当者がまず最初に糾弾されなくてはならないことは言うまでもありません。しかし、警察・検察にいいように操縦されて世論を思い通りに誘導するマスコミという存在なくして、警察・検察の犯罪は成功しません。そして、マスコミが全く反省しないのは、今回の足利事件の報道で、自分たちの罪を無視して裁判所・警察を非難する記事ばかりを掲載していることからも明らかでしょう。

足利事件に関する本はこちら

その他: 冤罪は誰が作るのか その1

asahi-911203朝日新聞 平成3年12月3日付朝刊

前回のエントリにて、菅家さんの冤罪を作る、少なくとも片棒を担いだのはマスコミであることを指摘しました。今日はその確認です。

上の朝日新聞では、DNA鑑定を無条件で持ち上げています。

  • スゴ腕 DNA鑑定
  • 100万人から1人絞り込む能力

警察発表を鵜呑みにした検証全くなしのトバシ記事です。それでもここまで断言されてしまうと、見出しだけ見た人は「DNA鑑定ってすごいんだ」「DNA鑑定で100万分の1の確率で本人と判定されたんだから犯人に間違いない」と思うでしょう。
細かい説明は抜きにしますが、警察側の発表でも、当時使っていたDNA鑑定方法による菅家さんと同じ型のDNA型の出現比率は0.83%と、ほとんど1%=100人に1人のオーダーでしか絞り込みができないものでした。「100万人に1人」と「100人に1人」ではえらい違いです。当時17万人の人口があった足利市で、100万人に1人であればまず間違いなくそれだけで犯人ですが、100人に1人では同じDNA型の人間が市内だけで数百人いることになるわけで、それだけでは犯人とは特定できないことになります。しかも、最終的にその菅家さんのDNA型そのものが間違っていたわけですから、まさに何をか言わんや、です。

そもそも、記事本文では

血液鑑定と併用すれば、百万人の中から一人を絞り込むことも可能とされ

と書かれており、この時点で記者としても「100万人に1人」というのは単なる将来の可能性であったこと、しかもDNA鑑定単体ではなく、血液鑑定と併用した場合の数値であることを明らかに認識しています。にもかかわらず見出しでは既に確立された技術のように断言し、ミスリードする。この記事を書いた記者は、菅家さんの冤罪の何%かに荷担した責任を感じたことはあるでしょうか?

足利事件に関する本はこちら

狭山事件: 伊吹隼人氏による新発見

「狭山事件を推理する」サイトに、伊吹隼人氏による追加取材報告が発表されています。

この件に関しては伊吹氏ご本人からも多少のお話しを伺っていますが、真犯人推理だけではなく石川さんの裁判にも大きな影響がありうる話なので、現時点では上記発表以上のことに触れるのは差し控えさせていただきます。是非とも上記リンク先を読んでいただきたいと思います。

下山事件: 秋谷教授のpHによる死後経過時間判定

下山事件自殺説紹介ブログさんの方で、特別講演 PH・時間曲線による死後経過時間の判定というエントリが発表されました。

このエントリは、下山事件研究の上で非常に重大な意義を持っています。
秋谷教授のpH曲線による死亡時刻推定法に関しては、これまで通俗的に取り上げられることは多くても学問的な基礎は謎な部分が多く、活字になっているものは古畑教授の著書に掲載されたものくらいしかありませんでした。その中で、これまで伝説のように

第三十四次日本法医学会総会での秋谷氏によるpH時間測定法についての特別講演録(「PH・時間曲線による死後経過時間の推定」、日本法医学雑誌 第4巻3-4号、p185-190、昭和25年)

で秋谷教授がpH法について正式に学会発表している、ということだけが語られてきました。

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狭山事件: 『狭山事件 -46年目の現場と証言』版元の社長がお亡くなりに

狭山事件を推理するサイトに、伊吹氏からの告知が出ました。27日朝、版元の風早書林の社長さんが急死されたとのことです。謹んでお悔やみを申し上げます。

本については、引き取り元がないとこのまま絶版になりそうとのことで、狭山事件研究という世界においては大きな打撃ですね。

出版社の社長さんの体調不良もあってなかなか流通がうまくいかないというお話しは以前から伺っていたのですが、このような形になってしまったのは非常に残念です。

(4月30日追記)一部で「また狭山事件関係者に変死者が」みたいな話があるようなので、念のため。私が伺った話では、版元の社長さんはかなりご年配の方で、以前から体調がすぐれず「余命何ヶ月」という話があったとのことです。今回お亡くなりになったのもその持病の関係と思われ、特に「変死」ということではないそうです。以上、とりあえず都市伝説化の防止のために書いておきます。