冤罪事件一般: 亀山継夫 最高裁元裁判長のインタビュー その2

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前回とりあげた亀山元裁判長のインタビューのもう一つの問題点は、弁護側が提出したDNA鑑定(通称押田鑑定)を、亀山元裁判長が見ていないことが明らかであるという点です。

このDNA鑑定の問題について、TVではかなり簡略化した話しか出ていませんでした。もう少し詳しくまとめると下記の通りです。

  • 当初、警察が採用していた123マーカーによる判定では菅家さんのDNA型は16-26で、の下着(シャツ)に付着していた(実は、この下着の保管状況にもかなり大きな問題がある)精液から抽出したDNAと一致したとされ、それが逮捕の決め手となった。
  • 後に、この123マーカーは極めて精度が低いことが指摘され、科学警察研究所自身がそれを認めて123マーカーの使用を取りやめた(アレリック・マーカーを使用するようになった)。
  • しかし、科警研は123マーカーの鑑定結果は一定の読み替えが可能であると主張し、の鑑定結果にも影響がないとした。なお、科捜研の主張する読み替えによれば123マーカーの16-26はアレリック・マーカーの18-30となる。
  • 弁護団ではDNA鑑定の追試をするため、獄中の菅家さんの髪の毛を採取させてほしいと刑務所当局に申請した。しかし、刑務所は法的根拠がないので協力できないと回答した。
  • そのため、弁護団では菅家さんに依頼して、手紙に髪の毛を同封して弁護人宛に送付してもらい、その髪の毛を日大医学部の押田教授にDNA鑑定依頼した。
  • 押田鑑定の結果、菅家さんのDNA型はアレリック・マーカーの18-29となり、犯人(18-30)と菅家さんは明らかに別人であるという結果となった。
  • 押田鑑定の結果は最高裁の上告審理中(97年10月)に提出されたが、亀山継夫裁判長はその鑑定に全く触れることもなく上告棄却の判断を下した。(2000年7月)
  • 再審請求に際しても弁護側は押田鑑定の結果を元にDNA再鑑定を要求したが、宇都宮地裁は「押田鑑定に使用された毛髪が菅家さんのものである証拠がないため、押田鑑定は無意味」として再審請求を却下した。
  • なお、当初、警察は16-26型の出現頻度は0.83%、血液型も一致する確率は790人に1人としていた。一審判決も有罪の理由の一つにこの数字を挙げている。しかし、実際にはその後の研究で16-26型+血液型一致の確率は185人に1人程度ということが判明しており、当時17万人の人口があった足利市だけでも1000人近い該当者がいたことになる。
  • 1991年当時、警察庁はDNA鑑定装置(1億1600万円)を予算申請していた。菅家さんが「DNA鑑定により」逮捕されたと報じられた直後の12月、復活折衝でこの予算が認められた。

最高裁(上告審)は法律審であり、いちいち事実調べはせず、下級審の事実認定を前提に法律の適用に謝りがないかを調べるのがタテマエです。その意味で亀山元裁判長の

この証拠が怪しいから再鑑定してくれとか、そういうことをいちいちどんな事件でもやってたら最高裁で事実審理を全部やり直さなきゃいけない。そんなことできないですよ

という発言は正しいと言えます。

しかし、最高裁では下級審での事実認定の正否を判断する権限が与えられています。そのための資料として個々の証拠を判断する権限もあります。

足利事件に関しては、本人の自白以外のほとんど唯一の物証がDNA鑑定でした。その鑑定に重大な疑義があるという内容が証拠付きで弁護団から提出されたわけですから、少なくとも事実認定のやりなおしを命じるのが筋でしょう。にもかかわらず、押田鑑定の内容に全く触れることもなく「原審の事実認定に誤りはない」と言い切り、

再鑑定といわれる鑑定をした、あるいはそういう風な証拠、証拠自体を出すべきだったんですよ

再鑑定してくれという申請しか出してないんだから

と発言していることから見ても、亀山元裁判長が押田鑑定をまともに見ていないのは明らかです。

前回も書いたとおり、亀山元裁判長が菅家さんに謝罪する必要はないと思います。それは筋違いの話ですから。しかし、法律家として失格の発言をし、最高裁裁判官としての職責を全うしなかったことが明らかな亀山元裁判長には、是非とも最高裁裁判官として得た俸給を国庫に返納していただきたいと思います。

(追記)
足利事件の再審請求に対して、宇都宮地裁の池本寿美子裁判長は、「押田鑑定に使用された毛髪は弁護士に手紙で送られてきたもので、菅家さんのものである証拠がない。だから押田鑑定は無意味」としました。まさに「よく言うよ」という感じです。そもそも、弁護側としては刑務所の立ち会いの下で菅家さんの毛髪を採取してDNA鑑定をしようとしたのに、刑務所がそれを拒否したため、やむを得ず手紙で毛髪を送ってもらうという形をとったのですから。なお、亀山元裁判長が言う「弁護団が提出した鑑定は事件と何の関係もない」というのも、もしかしたらこの意味かもしれません。

「筋弛緩剤事件」の尿サンプルの問題もそうですが、警察や検察が持ち出す証拠に疑義があって弁護側が再鑑定や検証をしようとすると、まずは様々な形で妨害が加わります。何とかそういった有形無形の妨害を回避して検証を行い、警察の「証拠」の非科学性を証明しても、裁判所は「装置が変われば結果も変わるので、弁護側実験結果をもって警察鑑定が否定される根拠にはならない」などと、わけのわからない理屈で難癖をつけて認めようとしない場合がほとんどです。

弁護団による証拠の再鑑定申立に対して、裁判所は無条件で職権により協力すること、さらにもし再鑑定が不可能であればその「証拠」は証拠能力を失うことにしなければ、警察による証拠捏造はなくならないと思います。

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