冤罪事件一般: 亀山継夫 最高裁元裁判長のインタビュー その1

テレビ朝日のニュースステーションで、足利事件の最高裁上告棄却決定が出された際の裁判長・亀山継夫氏のインタビューを見ました。見た瞬間、そのあまりのレベルの低さに笑うしかない状況だったのですが、よく考えるとこのインタビューには現代日本における司法の問題点、特に、以前も問題にした「なぜ冤罪は生み出されるのか」がかなりわかりやすく現れていると思います。なので、予定を変更してこれからしばらくこの問題について論じてみたいと思います。下山事件関係の続きは少々お待ちください。

以下、亀山元裁判長のインタビュー全文です。放映された部分はすべて書き起こしたつもりですが、もしヌケがあればご指摘ください。

インタビュアー「菅家さんに何か謝罪はされないんですか?」
亀山氏「そういう問題じゃないと思うんですよ」
イ「どういう問題ですか?人一人の人生が奪われて、
  真犯人はまだ捕まってないわけなんですけど」
亀「それを言うならね、警察とか検察庁に言ってください。
  裁判所というのはね、裁判に出てきた場にある証拠だけを
  判断するわけです。それしか判断できない。だから僕はね」
イ「結果として判断を間違ったわけですが、それについては」
亀「あ、それはね。何が結果だか、私は自分のした裁判、
  自分のところに出てきた裁判のことしか考えてませんから。
  特段の感想はありません」
イ「その間違った原因はなんだと思われますか?」
亀「もしね、それが間違っているんだとしたら、それはいろいろな
  ことがあるでしょう。ただね、これ私の自分の裁判のことでは
  なくて、この事件のことをずっと客観的に見てます。
  この事件の一番の問題点はね、公判廷で犯人が自白していると
  いうこと。被告人がね。公判廷でね、後で『いや、それは嘘
  だったんだ』と、いうふうなことになっているんですが、
  公判廷でそうむやみやたらにね、嘘でたらめを言って
  もらっちゃ困るんですよ」

イ「最高裁に、弁護側がDNAの再鑑定を申し入れて、それから
  10年間菅家さん無罪のまま中に入り、真犯人は外にいる
  わけですよね」
亀「それはね、なるほど、客観的には遺憾なことですが、そりゃ
  遺憾だとしか言いようがないよ。そうでしょ」
イ「客観的に?」
亀「客観的に」
イ「当事者ですが」
亀「当事者で裁くったってそりゃ我々は全力を尽くしてベストを
  尽くしてやってるんですから、それであれ以外にやりようが
  なかったと、いうことですよ」
イ「何か菅家さんに対しておっしゃりたいことは」
亀「いや全然ありません」
イ「そうですか」
亀「全然ありません」
イ「謝罪はされないですか」
亀「いいえ全然そういう気はありません」
イ「それはどうしてですか?菅家さんは求めてますが」
亀「どうしてって、筋合いじゃないんだもん」
イ「筋合いじゃ」
亀「うん。謝罪をする筋合いじゃないの。制度的に言っても、
  この事件から言っても。ともかくそういう気はありません」

亀「この証拠が怪しいから再鑑定してくれとか、そういうことを
  いちいちどんな事件でもやってたら最高裁で事実審理を全部
  やり直さなきゃいけない。そんなことできないですよ」
イ「かなり、でも7年たって最高裁で、そこで鑑定しても良かった
  と思うんですが。その、科学的な進歩を鑑みれば」
亀「だからそれならそれでそういう風な、あの、再鑑定と
  いわれる鑑定をした、あるいはそういう風な証拠、証拠
  自体を出すべきだったんですよ」
イ「はい。再鑑定を命じる前に。出してますよねでも」
亀「再鑑定してくれという申請しか出してないんだから」
イ「はあ」
亀「それは、よく調べてごらんなさい」
(おそらく、ディレクターから「出してますよ」という指摘が
インタビュアーに伝えられ)
イ「出してますよね?弁護側のDNA鑑定を出してますよ」
亀「それはだけど全然別のDNA鑑定だもん。あの事件の
  じゃないもの」
イ「いやいや、足利事件ですよ」

このあとやりとりがあるが、ナレーションがかぶって聞き取れない

イ「亀山さんにとって足利事件とはどういう事件だったんで
  しょうか?」
亀「うーん、どうということはない、普通の裁判でしたね」
イ「普通の裁判」
亀「うん。それは同じですよ。特に、あれだということはない」
イ「ありがとうございました」

この中で、

「この事件の一番の問題点はね、公判廷で犯人が自白しているということ」

この一言に、亀山元裁判長の発言の問題点が凝縮されています。刑事訴訟における推定無罪の原則がある以上、有罪が確定するまではあくまでも「犯人」ではなく「容疑者」であるはずです。それなのに、「犯人」と言い切る。さすがに気づいたのか直後に「容疑者」と訂正していますが、その後の発言でもまだ菅家さんが犯人だと思っていることが言葉の端々に出てきます。

また、この発言はもう一つ重要なことを端的に表現しています。それは、日本の裁判における自白偏重主義です。

裁判官が有罪無罪の判定に自白を重視するため、日本の警察・検察は、ある意味で証拠固めよりも何倍もの労力を、自白を取ることと公判廷でその自白を維持させることに費やします。菅家さんの場合、公判廷で自白を維持したのは「あの恐ろしい、取り調べをした刑事が傍聴席にいるのではないかと思ったから」とのことです。
そして、足利事件以外の冤罪事件、例えば狭山事件でも、客観的な物証には多くの矛盾があるにもかかわらず、「自白しているから」ということだけで有罪判決が出され、控訴・上告審でも維持されています。

刑事訴訟法第三一九条二項にはこう書かれています。

被告人は公判廷における自白であると否とを問わず、その自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には、有罪とされない。

厳しい司法試験に合格なさった検察官や裁判官の方々がこの条文をご存知ないことはありえないと信じたいのですが、現在の日本の裁判や判決、さらにこういう発言を見ている限り、もしかしたらご存じないんじゃないかなあ、という気もしてきます。

ちなみに、亀山元裁判長は検察官出身とのことです。有罪率99%を超えるこの日本国において、担当事件で無罪判決が出ることは検察官の出世に大きく響きます。そのことを身にしみて知っている検察官出身の裁判官が、刑事事件で有罪以外の判決を書けるはずがありません。従って、そのような裁判官が最高裁に存在すること自体が不適切だと個人的には思います。

いずれにしても、「やったと言ってるんだからやったんだろう」というレベルの方が最高裁判事を5年も勤めておられた。この事実が日本の司法における問題点をかなり端的に表していると思います。

なお、このニュースステーションの番組自体はあまりほめられたデキではないと思います。感情を煽る方向ではなく、もう少し冷静な議論ができないかなあ、とは感じました。さらに、亀山元裁判長へのインタビューでも、明らかに感情を逆撫でするような聞き方をしているのはマイナスポイントだと思います。

しかし、逆に言えばあのような聞き方で感情的にさせたからこそ上記のようなホンネが聞き出せたのでしょう。普通に取材申し込みをしたり、インタビューをしたのではノーコメントを通すに決まっていますし、これまで亀山氏はそのような回答を通してきたようですから

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6 thoughts on “冤罪事件一般: 亀山継夫 最高裁元裁判長のインタビュー その1”

  1. 管理人さんこんにちは。いやあ、とても出来の悪いブラックジョークにしかみえませんねえ。
    彼のコメントで私が納得できるのは、「個人」として謝罪しない、という点だけです。この辺私の感覚は他の人と違うかもしれませんが、それは、司法判断は「国家の責」として行われるものだと考えるからです。「国家の責」で行われるからこそ、最高裁の判断は法の運用において、大きなウェイトを締めるのではないのでしょうか。それが「個人の責」であるとすれば、その判断の正当性すら疑われるものとなってしまうでしょう。
    ただ、彼がその任にふさわしい資質の持ち主であったかどうかは別の話でありますが、これはまあ見て分かる話ですよね(笑)
    それより問題は最高裁の判事諸氏には「自身の判断が、日本国としての最終判断である」という自覚があるのか、という点です。
    最高裁は司法における最後の砦です。人間の行うことですから、間違いはおきます。しかし上記の自覚があれば、その判断は慎重に慎重を期して行われるべきでしょう。
    しかし、彼の発言からは、そういったニュアンスは感じられず、むしろ、回避のため、他者に責任押し付けることすらしています。
    そのような「その任に堪えざる人物でも、その地位につけてしまうシステム」そのものが、なにより「日本の司法」を危うくしてしまっているのではないのでしょうか。
    怒りのあまり、長文になってしまいました。お許し下さい。
    天候も不順です。管理人さんもお体をお労り下さい。GHQ文書の解析も楽しみにしております。
    では。

  2. コメントありがとうございます。

    そうですね。亀山氏が「筋が違う」と言って謝罪しないのは当然だと思いますし、そこを非難するのはお門違いだと思います。その点で、あくまで謝罪を迫る長野智子氏ならびに古館伊知郎氏の番組進行は見ていて不快に感じる部分もあり、さらに「ツッコむところはそこじゃないだろ」とも言いたくなりました。

    しかし、だからと言って、上でとりあげたような亀山氏ご本人のトンデモナイ発言が許されることにはなりません。さらに、このような発言をする方が最高裁判事まで務めたというのは、明らかに日本の司法行政の問題だというご指摘にも深く同意します。
    結局、この方にとって、最高裁裁判官とは「司法における最後の砦」ではなく、ご自分の検事としての出世の終着点だったのでしょう。

    ちなみにこの人、最高裁を退官した後は東海大学法務大学院の教授に天下っておられたとのことです。学生にどのようなことを教えていたのか、ちょっと興味があります。

  3. 今まで見た団体のトップで、圧倒的に最低な奴でした。
    「人を殺す勇気はあっても、無罪を出す勇気は無い」という保身の塊ですね。
    こんなのがトップだから、宇都宮地裁も再審請求で訳のわからない理由で棄却するんでしょうね。
    こんなデタラメな司法制度の国に嫌気がします。

  4. 私はこのテレビ番組を実際見ていました。なので、感想を。
    私がテレビを見ていて一番驚いたのは以下の亀山元裁判長の発言です。

    <公判廷でそうむやみやたらにね、嘘でたらめを言ってもらっちゃ困るんですよ」>

    容疑者が嘘をつかない前提でいては真実の発見などおぼつきません。警官や検事だって嘘をつきますから。
    取材者やコメンテーターはここに食いついてもらいたかったですがスルーでした。
    私は普通の人より裁判にかかわることが多いですが、裁判の実態は書類審査のようなものです。
    多くの裁判官に真実発見の気概などありません。流れ作業で事件を処理するのが彼らの本分のようです。

    >もしかしたらご存じないんじゃないかなあ、という気もしてきます。
    たぶん、マジで知らないんだと思います。法曹関係者だから知っているはずというのは世間の思い込みです。私は法律家とかかわることがしばしばありますが、私でも知っていることを「専門外だから知らないと」平気でいうことはよくあります。彼らのために弁護すれば医者も専門外のことは知らないということはありますが。

  5. 反応が遅くて申し訳ないですがコメントありがとうございます。

    ご指摘の点はまったく同意です。本来、刑事裁判という場は、「証拠」を元に被告人が犯罪を犯したか否かを審査する場であるはずです。被告人の自白や供述は単なる証拠の一つであって、絶対的な存在ではないはずです。それなのに「嘘やでたらめを言ってもらっちゃ困るんですよ」「この事件の一番の問題点はね、公判廷で犯人が自白しているということ」と公言して、「犯人がやったって言ってるんだから有罪に決まっている」という態度を取る亀山氏が最高裁判事まで務めることができる(できた)という事実に、日本国の司法の問題点が如実に表れていると思います。

  6. 本当に唾棄すべき人間ですね。
    読んでいて逆に悲しくなります。
    こういう反省心のない人間だからこそ最高裁判事にまで栄達したのでしょう。
    裁判官の身分保障というのは彼らの栄達のために与えられたものでも、言い訳のためにあたえられたのでもないはずです。
    他の裁判官も「裁判官は弁明せず」などとたわけた寝言をぬかしてますが、信じられません。謝罪することすらできない人間が裁判官として務まるのでしょうか。
    道義的責任として関与した裁判官は「誠実に」謝罪するべきでしょうし、まだ裁判官の職にある者は自主的に職を辞すべきでしょう。

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