前回の画像で引用した部分にはもう一つ、諸永氏の悪いクセが出ているところがあります。 それは、「既に発表されている周知の内容を、さも自分が発見した新事実のように書いてしまう」という点です。
この手法の典型的な例として、以前にも言及した、「末廣旅館の主人は元特高関係者である」ことを、さもこれまで警察によって隠蔽されていた、新発見の事実であるかのように読者に誤認させるようにし向けた記事(下山事件自殺説紹介ブログさん)があります。
諸永氏は、前回引用した記事の最後で、女将を調べた東京地検の検察事務官の話を「ジャーナリストの斎藤茂男はこんな話を聞かせてくれた。」という形で、本人から直接聞いた話として書いています。しかし、本日の画像を見ていただければわかるように、ほぼ同じ内容を斎藤茂男氏は著書『夢追い人よ』で既に書いています。
諸永氏が斎藤氏とそういう話をしたのは事実なのかもしれません。しかし、既に斎藤氏が著書に発表している内容なのにもかかわらず、さも斎藤氏が諸永氏に裏話の打ち明け話をしたような書き方をするのは、レトリックの範疇を超えた、ご自身と斎藤氏の親密さを強調するための捏造と言われてもしょうがないのではないでしょうか。今回の画像と前回の画像を見比べていただければわかりますが、「それらしい人物が現れたのは事実だと言えても、下山総裁そのものが現れたとは言えないと」という一文などは多少の漢字遣いの相違を除いてほぼ完全に一致しており、諸永氏が『夢追い人よ』を見ながら文章を書いたことは明らかです。にもかかわらず、しれっと「こんな話を聞かせてくれた」という表現をする……。
『葬られた夏』で最も高く評価されているのは、元GHQやキャノン機関などの関係者に直接インタビューし、それを文章化した点だと思います。しかし、諸永氏がこういう文章を書く方であるという前提に立つと、そういったインタビューも、既に出版された書籍などから得た情報を元に、さも本人にインタビューして直接聞いたように再構成して書いているのではないか、という一抹の不安を抱かされてしまいます。天下の朝日新聞の記者がまさかそんなことをするはずはないとも思うのですが、『夢追い人よ』のような比較的手に入りやすい本をネタに平気でこういうことをするということは、諸永氏は読者をナメているとしか考えられません。そうなると、他の部分の信憑性も推して知るべしといったところでしょう。