津山事件: スーパーモーニング

「スーパーモーニング」で都井睦雄の墓とされていた石「スーパーモーニング」で都井睦雄の墓とされていた石

本日(2008年7月21日)朝のテレビ朝日「スーパーモーニング」で、津山三十人殺しの特集がありました。先日のトトロ放映に続いてまた本ブログへのアクセス数が増大しています。結論から言うと、何というか、あれだけ短い中でよくもこれだけの間違いを詰め込めるもんだと呆れるデキです。

まずは番組中の明らかなウソあるいは事実誤認から。

  • 頭の懐中電灯が、スタジオではちゃんと前を向いていましたが再現フィルムでは上を向いてました。あれじゃ前を照らせないから意味がありません。
  • 「祖母の田畑を担保に借金をして」とありましたが、戸主は睦雄なので睦雄自身の田畑でした。
  • 寺井ゆり子(筑波本で使われていた仮名、都井睦雄が一番執心した女性)が逃げ込んだ先の家が全滅させられたということはありません。逃げ込んだ先の家で殺されたのは状況を把握せずに外に顔を出したおじいさん1人だけでした。睦雄自身は結局家の中に入れずに外から数発銃を撃ち、おじいさんを殺害して戸を押さえていたこの家の娘(この娘は都井とは関係がなかった由)に傷を負わせただけで次の家の襲撃に向かっています。この点、再現フィルムはかなり故意に事実をゆがめて作られています。
  • 要するに、睦雄がゆり子を殺せる状態だったのに殺すに忍びなくて殺さなかったということはありません。
  • 都井睦雄の墓がある倉見は、祖母の故郷ではありません。祖母の故郷は貝尾で、睦雄と姉の故郷が倉見です。このあたりの詳しい経緯は前回のエントリをご参照ください。
  • 事件が起こった貝尾から倉見までは15kmほど。現在は道も舗装されて走りやすい道路になっており、車で1時間もかかりません。
  • 加茂町史には、1行だけですが「都井睦雄事件」についての記述があります。

いずれも筑波本(津山三十人殺し―日本犯罪史上空前の惨劇)を一冊読んでおけば指摘できるレベルの内容であり、スタッフがどれだけの熱意を持ってこの題材に取り組んだのかが偲ばれます(笑)。

次に、見ていて疑問に思った点です。

  • また違う石が都井睦雄の墓として映し出されていました。これで3つめの説です。本日のエントリの一番上に、「スーパーモーニング」が睦雄の墓として映していた石の写真を置いておきます。ただ、おそらくはやはり「実話ナックルズ」が出していた石が睦雄の墓だろうと思います。
  • 寺井ゆり子の夫も一緒に里帰りしていていて、睦雄が来た時夫はゆり子を置いてさっさと逃げたという話は初耳です。夫については事件後もゆり子を「あの都井が執心した女を手放すわけにはいかん」と離縁せずにいた度量の大きい人物という風評があり、それとも矛盾する行動です。この辺は証言者の話をそのまま再現したようですので証言の方の信憑性の問題かも知れませんが、ちょっと調べればわかることでもあり番組中で注釈するべきではないでしょうか。

ちなみに、この番組には週刊朝日の「スクープを連発する名物編集長」として山口一臣氏が出演していました。森達也氏の『下山事件』にも登場したことで下山事件フリークには有名な「あの」山口氏です。この人のコメントがまた事実誤認や「?」の嵐で、思わず納得すると共に笑ってしまいました。ちなみに、山口氏はこの事件に関して番組中3回しかコメントしてません。大した打率です。

  • 都井睦雄が秀才で、小学校時代には「級長」や「総長」になったというコメントがありましたが、「級長」にはなったものの「総長」にはなっていません。また、「総長」が「生徒会長」のようなものとコメントしていましたが、姉の供述にあるのは「総長」は「級長」の上にできた役職というだけで、それが「生徒会長」のようなものだという証言はありません。
  • 「秋葉原の事件に似ている」というコメントをしていましたが、秋葉原の事件が無差別に群衆に突っ込んだ事件であるのに対して、津山事件は恨みがある(逆恨みかもしれませんが)近所の村人を殺害した事件です。事件の根本的構造が違うのに、根拠も説明せずイメージだけで「似てる」とコメントするその感覚を疑います。
  • 「どうせ肺病で死ぬんだからどえらいことをやってから死にたい」と睦雄が言ったという証言はどこにあるんでしょうか?筑波本に西川登(仮名)の妻の話として「睦雄がえらいことをやらかすそうですけん」と「西川のとめさんから聞いた」という話、それに対して登が「そら睦雄の口癖じゃ」と言ったという話はあります。しかし、「どうせ肺病で死ぬんだから」という理由付きで「どえらいことをやってから」「死ぬ」と睦雄自身が話したという証言は見たことがありません。是非とも出典をご教示いただきたいところです。山口氏がTVでこのように発言したことで、「都井睦雄は明確に犯行予告をしていた」という都市伝説が事実としてまかりとおるようになるのではないかと思います。2008年9月24日注記。この項目については、実際にそういった記述があることをご指摘いただきましたので削除するとともに山口氏にお詫びいたします。しかし、他の項目に基づく以下の記述を変更するつもりはありません。

こういう感覚の人だから、諸永氏の下山事件関係の連載のウソや事実誤認もそのまま掲載し続け、さらに単行本が出た時には臆面もなくアマゾンでヨイショコメントを書き、森達也氏の本が出て諸永氏ともども批判されると、実名で出していたコメントを「やまちゃん」とかいうハンドルに変更して、恬然として恥じないんでしょうね。なんというか、呆れるばかりです。知らないなら知らない、筑波本もまともに読んでないなら読んでないというスタンスでコメントをすればいいものを、あたかも自分は全部知ってるんだと言わんばかりの態度で大ウソを口にする。それでお金がもらえるんだからいい商売です。こうなると、以前あった「70年目の新証言」の記述も、どこまでが真実なのか疑いたくなってしまうのが人情というものです。

津山事件に関する過去のエントリはこちら

津山事件に関する本はこちら

7 thoughts on “津山事件: スーパーモーニング”

  1. この事件に興味を持って拝見していましたが、間違いだらけの情報で
     今まで知らなかった人の認識は変わって伝わってしまいますね。
    私も、たくさん調べましたが視聴者は真実を知りたいはずですよね。
    いい加減な情報は、多数の混乱を招くだけなので自覚していただきたいものです。
     今後、スーパーモーニングを観る事があっても、信用はしないですね。

  2. 「どうせ肺病で死ぬんだから」という理由付きで「どえらいことをやってから」「死ぬ」と睦雄自身が話したという証言は見たことがありません

    筑波本(文庫)p347の内山寿の記述「阿部定に負けんようなどえらいことをやって死にたいもんじゃ」でしょうかね?

  3. すいません、前文が抜けていました

    正しくは、内山に都井が語った「わしがどうせ肺病で死ぬなら、阿部定に負けんような、どえらいことをやって死にたいもんじゃ」です

    私は殺人とかの話がとても苦手ですが、偶然八墓村をビデオで見たのち、少し興味があって
    筑波本を読んでみました

    凶行までの1人の人生がそこには書かれていて、姉や祖母との生活などとても温かみのある内容がありました

  4. すいません。文庫本を持っていないので単行本を確認しました。一番最後に近い部分(単行本だと275ページ)ですね。本件につきまして本文の記述を撤回するとともに、山口氏に対してお詫び申し上げます。ただし、他の部分、ならびにそれに基づく評価を変えるつもりはありません。ご指摘ありがとうございました。

  5. 都井睦雄の墓が3つの説がありますね?どれが本当の墓なのか誰か追究してくれ!それとも分骨してどれも本当の墓なのか?

    1. 恐らく、スーパーモーニングが映した墓は睦雄さんの墓ではないと思います。証拠はありませんが、適当な事を放送する番組を信用することは出来ません。
      睦雄さんの墓が特定されることを願います。

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