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津山事件: 京都帝大 小南教授の論文について

京都帝大小南教授の論文
京都帝大小南教授の論文

先日、『津山事件の真実』ご購入ご希望の連絡をいただいた方から、掲題論文についての情報をいただきました。

津山事件の初期の文献としては『東京醫事新誌3117号』に京都帝大教授小南又一郎が発表した「最近に於ける三十三人斬事件として社会の耳目を驚愕せしめたる岡山の嫉妬犯罪に於ける惨劇の一例」がありますね。
小南はこの事件の報を知るや否や加害者の精神状態を調べ社会防衛上十分な研究をすべし、として「該地方に在る数名の知人を介して」事件後2か月で調査をだいたい終了、岡山県の当局の発表を待っていたところ「毫も之なきを以て」先に発表したと断っております。

おそらく「事件調査報告書」よりも先に発表された論文だと思われます。

この掲載情報については知りませんでした。情報をありがとうございます。

「津山事件報告書」は、事件からほぼ1年後に刊行されたこともあって、事件直後のマスコミ報道や事件後に発表された研究論文を収録しています。この小南教授の論文も「報告書」に収録されています。タイトルは異なっていますが、論文末尾に初出が東京醫事新誌(昭和14年1月14日発行)であることが記されている(この点、ご指摘をいただくまで気づいていませんでした)ため、同じものと思います。

ちなみに、この小南教授の論文は、睦雄が「精神分裂症の前驅」であったと判断しています。それは、同じ精神科医の分析であるにもかかわらず、中村一夫氏の

彼の精神症状には分裂病にみられるような人格の妄想病性硬化も見られず、独立性感動障害の固定した単調性もなく、分裂性の破壊もない。

という分析とは真っ向から相反するものです。どちらが正しいのかは精神科の専門家ではない私にはわかりません。

ただ、小南教授の論文の末尾は、このように締めくくられています。

此の如き有様なれば、普通人の間に於て奇行の多き、或ひは周圍と甚しく調和せざる精神異狀者或はそれに近しと思はるゝが如きものあらば、よく注意して直に之をその筋に申告し、社會危險防衞の資とすべく、叉此申告を受けたるもの、或はその診察を乞はれたる醫師は、そが精神異狀者なるや否やを叮嚀に調査決定し、その保護監視を十分嚴重にすべく周圍のものに指示すべきなり。
(中略)
精神病性犯罪者の保護監視豈に忽にすべけんや。
尚此等の詳細は他に筆を改めて記述することあらんも、今回は唯題示の如き大惨事の突發したる機會を無にせず、精神異狀者或はそれに近きものゝ保護監視を十分にせざるべからざる所以を強調して筆を止めんとす。

要するに、小南教授ご自身の持論であろう、精神病者に対する予防拘禁措置の実施を主張するために、「題示の如き大惨事の突發したる機會」を利用したい、そのためには睦雄が精神病でないと困る、ということなのではないかという気が、個人的にはします。


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