前回のエントリで論じたとおり、野間宏『狭山裁判』にある先生自身の証言を信用するなら実話ナックルズの説は荒唐無稽で済ませられるのですが、いろいろな証言を総合するとそうもいかないのではないか(可能性として考察する価値は十分にあるのではないか)という気がしてきてしまいます。
最も大きな問題として、A先生が試合のために引率していたと証言している堀兼中学野球部は、事件当日の5月1日には試合がなかったのではないか、という点があります。
『狭山事件を推理する Vの悲劇』(甲斐仁志著)によると、「堀兼中はすでに試合に負けており、この一日には試合がないことが明らかで、この点から見ても(A先生の)証言には事実の裏付けがない」「(A先生の)証言は事件当時のものではなく、二審の最終段階での供述である。しかも五月一日の事件当日の決勝戦までに野球の試合はトーナメントで四試合が行われており、記憶に混乱が生じるおそれは十分にある」となっています。
この本(『狭山事件を推理する Vの悲劇』)は、真犯人を推理するという観点を中心にまとめられた狭山事件関連書籍としては珍しい本で、そっちの方面から狭山事件に興味を持っている方であればある意味必読書と思います。しかし、たとえば長兄の手記に関して、「犯人たるおまえに なぜ善人に戻って呉れなかったのか、悪に取りつかれたおまえでさえ戻るのみの善をおまえはもって居た筈であり、その善は今日のこの日を待っては居なかった筈なのに……」という、サンケイ新聞には掲載されていなかった文章を紹介し始めたのもこの本であるらしく、そういう意味ではちょっと注意が必要な本であることもこれまた事実です。
それはそれとして、当時堀兼中野球部員であったOT君が、A先生の引率する野球部とは別行動の(「野球を見に」東中に向かっている)最中で被害者に会ったと証言していることから考えても、事件当日に堀兼中野球部は試合がなかった、というのは事実であるように思います。(OT君は後に刑札に責め立てられてこの証言を撤回しています。この証言についてはまた別途採り上げたいと思います)。(この部分は誤りであることが明らかになりましたので削除します)
そうなってくると、A先生の証言が単なる勘違いなのか、あるいはためにするウソなのかということも問題になってきてしまうと思います。
正直、個人的にはA先生犯人説にはかなり懐疑的なのですが、いろいろ調べていくとA先生犯人説を決定的に否定できる材料が見あたらず、実話ナックルズで提示された動機の問題も考慮すると、一つの可能性として考えなくてはいけないのかなあ、という気がします。
さらに言えば、学校の先生と地元警察署交通課の巡査(SG巡査部長)には交流があったとも考えられ、SGが個人的に手を貸したという可能性も考えられることになります。完全に推測の世界の話になりますが。
ちなみに、今回アマゾンアフィで『Vの悲劇』のリンクを貼り付けていますが、この本がここまで高騰しているとは思いませんでした。
管理人がこの本を2年くらい前に中古で購入した時は確かまだ2~3千円くらいだったと思います。その価格なら十分以上に価値があると思います。1万円以上出す価値があるかどうかについては、とりあえず、図書館等で中身を見てから決めていただいた方がよろしいかと。個人的にはそれでも買いたい本ですけどね。
この説はまさに驚愕の真犯人像と言いたい処なのですが、ところで説では先生には共犯者はいたと言う設定でしょうかそれとも単独犯でしょうか。それによって、この説の蓋然性を検討する際のやり方が変わって来ます。
単独犯想定なら、先生犯人説は問題外としてよろしいでしょう。なにしろ、被害者の姉が佐野屋へ行った晩、PTA会長とともに、A先生は佐野屋の生け垣の陰に居たわけですから。
では複数犯を想定した場合ですが、共犯者がいたならば、佐野屋の際の上記のアリバイは崩れます。しかしA先生主犯で複数犯説をとる場合、共犯には誰を想定するのか、そして何故その人物が共犯を引き受けたのかを、できるだけ空想的な話は抜きにして説明する必要があります。(この場合やはり共犯として想定され易いだろうと思われるのはOGやITあたりになると思いますが)。
A先生はまだ存命と言う記憶があり、実は最近、なんとかツテをたぐって取材出来ぬかと検討していたところです。
コメントありがとうございます。ところで、
という話ですが、これの出典はどこでしょうか?PTA会長については次姉を説得した関係でさのヤに同行したことが本人の裁判での証言にも出てきますが、A先生も同行したという明確な証拠がちょっと見あたらなくて…
どっかに出ていましたっけ?
A先生がご存命という話は知りませんでした。もしお話しが聴けるのであれば、かなり有力な手がかりになりそうな気がします。
正確に言うと佐野屋の板塀の陰でしたが。この出典は手元の記録では一審第二回公判調書です。調書自体を所有してるわけではないので原文は忘れましたが、当のPTA会長ほか、佐野屋に居た民間人の証言についての小生自身のメモによります。市販の本では、「狭山事件権力犯罪の構造」「狭山事件無罪の新事実」などにも出ております。
小生自身はまだ実話ナックルズの説を読んでおりませんが、読んでみて検討に値するものであれば、当方サイトでも少し取り上げてみる所存です。今の処はこのような説は要するに被害者との男女関係を色々な人物に想定した既出の説と同じ発想で、荒唐無稽と言うのではなく、男女関係の清算を動機として長兄、姉の婚約者、あるいはOGなどを犯人と推理した説と同程度の蓋然性だと考えています。
他方、野球活動繋がりでA先生とSG氏が面識があったと言う推測も出来ないことはないですね。小生的には、上に記したように「男女関係清算説」と言うのは特に目新しいところはありませんが、この説も細部をつめてゆけばそれなりに緻密で有力な説になる可能性もあります。そういう緻密さがあるかどうか、一応小生も読んでみようと思います。
ご教示ありがとうございます。とりあえず、『狭山事件無罪の新事実』で確認しました(244ページ)。
ただ、他のいろいろな本を見ても、PTA会長には触れていてもA先生がさのヤに同行したという話がほとんど出てこないのが気になるんですよね。例えば野間宏の『狭山裁判』でもA先生のことは
としか書かれていません。さのヤにA先生は本当に同行したのかどうか、ちょっと後で公判調書も調べてみたいと思います。
それと、実話ナックルズですが、正直「読んでみて検討に値する」ものではないと思います。ここでもちょっと書きましたが事実誤認も多いですし。ただ、今まで(私が知る限り)指摘されたことがない説で、おっしゃる通り「蓋然性」の一つとして検討する価値はあるのかなあ、と思っています。