[[足利事件]]で再審請求中だった菅家利和さんが釈放され、再審請求が認められる見通しになりました。狭山事件の再審請求の立場から見ても朗報と思います。
この足利事件ではほぼ唯一と言っていい物証がDNA鑑定でした。しかし、当時(1990年)のDNA鑑定技術には非常に大きな問題がありました。にもかかわらず、読売、朝日、毎日などの全国紙をはじめとするマスコミが事件当時に「百万人に一人を絞り込む能力」「スゴ腕DNA鑑定 捜査の決め手」などとほめそやしたことが、菅家さんの冤罪を強力に後押ししました。その意味で、今回の再審決定に際して、朝日や読売が他人事のように問題を報道する姿勢には問題があるとしか言いようがありませんし、ある意味で絶望すら覚えます。
本日のエントリの一番上に掲載した写真は、雑誌「冤罪File」の2008年9月号に掲載されていたものです。上側が実際に科警研(科学警察研究所)が証拠として提出したDNA鑑定写真、下側が上告段階で弁護側がDNA鑑定の専門家に依頼して作成してもらった写真です。
見てすぐわかるのは、上の写真はピンボケで、下の写真と比べてもDNAバンドの幅が非常に広く、不鮮明にしか写っていません。真犯人のものとされる1と2のDNAバンドは特に不鮮明です。
後に弁護側が明らかにしたように、そもそもこの当時科警研が使用していた123マーカーと呼ばれる「DNAの物差し」は不正確でした。このことは科警研自身が後に学会発表で認めています。
そこで、弁護側は、第三者によるDNA鑑定の結果を基に、「菅家さんのDNA型そのものが間違って判定されている」ということで再審請求を行いました。ところが、科警研は、「当時の123マーカーは確かに不正確かも知れないが、一定の換算で現在使われているアレリック・マーカーに読み替えできる」と主張し、それが裁判所に認められて再審請求がいったん却下されています。
ところが、科警研の主張通りに読み替えても、菅家さんのDNA型が現在の最新技術で解析したDNA型と一致しないことが判明したために、今回再審請求が認められたというのが話の流れです。
要するに、当時の「DNA鑑定」は非常にお粗末なものであり、それを読売や朝日などの大手マスコミがきちんと検証もせずに「百万人に一人を特定のスゴ腕」などとタレ流し、世論を形成した。そして、裁判所が「警察・検察は証拠を捏造しない」「弁護側が出す反証は、いかに科学的に見えても信用できない」という一方的な予断のもとに世論に迎合して有罪判決が下され、再審請求が却下されてきたという、冤罪が生み出される典型的な構図が見えてきます。
足利事件が「有罪」になった背景として、1990年当時、警察がDNA鑑定を全国に導入するための予算申請を行っており、そのモデルケースとして足利事件の「戦果」を強調していたために、裁判所を含む司法関係者としてはこれを無罪にすることができなかった、という説があります。時系列から考えてその説はかなり信憑性が高いと思います。いずれにしても警察と大手マスコミの「罪」は消えることはないでしょう。
この足利事件の場合、菅家さんを冤罪で逮捕・収監したことで直接的な悪影響が出ています。横山ゆかりちゃん行方不明事件です。ゆかりちゃん事件が起こった1996年当時に菅家さんは拘置所の中でしたから、この事件の犯人は明らかに菅家さんではありません。にもかかわらず、その手口は足利事件に酷似しています。この事件は足利市の隣の太田市で起こっています。足利は栃木県、太田は群馬県ですが、二つの市は川をはさんで隣あっており、お互いの市街地の間は車で10分程度の距離であることを考えると、足利事件の真犯人とゆかりちゃん事件の犯人が同一人物である可能性は非常に高いと言えるでしょう。警察がまともな捜査をしていれば、ゆかりちゃんが行方不明になることはなかったとも言えるわけで、ここに冤罪事件の本当の意味での罪深さがあります。
今回、菅家さんの再審請求が認められたことは、裁判所としてもようやく「最新の科学的検討に照らして、あまりにもあからさまな冤罪は再検討しよう」という流れになったことを示しているのではないかと思います。それは、遅きに失した感はあるにしても大いに評価すべきことであると思います。
確かに今回の件に関する新聞記事は、過去の裁判所の過ちを糾弾する姿勢ですね。
自省の感は全く見受けられない。
管理人さんのご指摘がなかったら、私もそこには気付かなかったと思います。
こういう視点からの指摘をし続けてください。マスコミには自省能力が無いですし、彼らの流す悪意の無い危険な見解はあっという間に世論を作り上げてしまいます。私みたいな不勉強者はすっかりそれに飲み込まれて、気付かずにいるのです…
「チェックする目」をこれからもお願いします!
こんにちは。トトロでの検索からやってきて先週から一気読みしました(写真は怖くて見ていないものもありますが)。
狭山事件、津山事件そのものは、無限回廊さんのサイトを読んだことがあったので、(トトロ都市伝説で事件名を聞いたときにはわからなかったのですが)ああこの事件知ってる、と(下山事件は知りませんでした)。
先日、菅家さんがMちゃんの発見場所の渡良瀬川かどこかで手を合わせて・・というニュースがやっていました。自分は菅家さんがMちゃんのご遺族と会っているのかどうかが気になります。そのニュースではやっていなかったので。
菅家さんの苦しみは推し量ることのできるようなものではないと思いますし、菅家さんはなにも悪くありません。ですが菅家さんが犯人に仕立て上げられたことで結果として真犯人がたすかったのは事実です。
遺族は複雑な思いがあるのではないかと思います。
ゆかりちゃんの事件がここからすぐ近くだというのは初めて知りました。ショックです。
会っていなくても、―もしかしてご遺族のほうから断わっているのかもしれませんが―、ご遺族に対してなにか気遣いのひとことがほしかったなあ、というのをそのニュースで感じました。
それがないとどうもMちゃんについて話していてもにせものに見えてしまって・・。
また逆にご遺族としては(混乱はあるでしょうが)菅家さんに対して憎悪を向けていたはずで、菅家さん側ばかりクローズアップされるせいで、ご遺族の沈黙がよいものに見えなく感じてしまいました。
過去の事件を調査することは、きっかけは謎に対する無垢な興味であっても、現在において同じあやまちを起こさせないために、大事なことなのですよね。
私は極度の怖がりなのでいつも通うことはできそうにないですが定期的におじゃまさせていただきたいと思います。
管理人さんお体にお気をつけて頑張って下さい。
まず最初に、足利事件の菅家さんあるいはご遺族の動向については、私もニュース等で報道される以上のことは存じ上げていません。ただ、ご遺族から、「警察にも是非謝ってほしい」というご意向があったという報道はどこかで(すいません。今海外出張中なこともあって確認できていません)読んだ覚えがあります。
ここしばらく冤罪に関して論じている一番の理由は、いまだに「やってもいないのに自白するのはおかしい」「最高裁まで行って有罪になっているんだからやってるはずだ」という素朴な「反・冤罪」論がまかり通る現状、さらにその根本の原因になっている一部
マスゴミマスコミの捏造報道に個人的に危機感を感じているからです。私自身、単なる個人的興味からこのブログでとりあげている事件もあるので偉そうなことは言えないのは重々承知していますが。
いろいろお気遣いをいただいてありがとうございます。