前回のエントリなどで書いたように、昭和24年の下山事件当時に秋谷教授が採用していた試験紙法では測定精度に限界がありました。つまり、たとえpH変化による死亡時刻推定が理論的には正しい物であったとしても、技術的限界から実用になるものではありませんでした。
それに対して、現代の高精度なpHメーターを使用した場合に、本当に秋谷理論が正しいのかどうかを検証してみようというのがこれからご説明する実験の趣旨です。
今回、この追試をやろうと思い立った一番の理由は、私(管理人)が勤務している会社の関係で、肉測定用の突き刺し型pHプローブ・メーターのデモ機が手に入ったことです。
一番上の写真で真ん中に写っているのが当該デモ機です。特徴として、通常のpH電極に使われているガラス電極ではなく、ISFET(半導体センサ)を使用していますので、肉に突き刺した場合でも中で割れるなどの事故の心配がありません。もしこのエントリをお読みで本製品にご興味がある方がいらっしゃいましたら、管理人(blog@flowmanagement.jp、間の@を半角に変換してください)までご連絡ください。(以上宣伝でした)
回りにある器具類は別途で買いそろえたもの、もともと家にあったもの、取引先のご厚意(笑)で分けていただいたものなどです。以下のようなものをそろえました。
- pHメーター・肉刺し計測プローブ
- リトマス試験紙
- BTB試験紙
- 乳鉢
- 三角フラスコ
- はかり(0.5g単位)
- ろ紙
- 精製水
- 消毒用エタノール
- 標準液(緩衝液)pH 4.01, 6.86
- プラスチックスポイト
ここで問題になったことが2つありました。
1つは、秋谷教授の実験によると肉を30℃で保管した場合のpH変化を計測したことになっていますので、30℃をキープできるような装置が必要なのですが、本格的な恒温槽やインキュベータは下手すると10万円以上かかるので手が出ません。とりあえず、手持ちの水槽に熱帯魚用サーモスタットヒータを組み合わせることで、ほぼ30℃という環境を作りました。
恒温槽代わりの水槽とヒーター
10℃くらいの温度の上下は実験結果に影響しないとは当の秋谷教授のお言葉ですので、これでも充分対応できるはずです。
2つめ、そして一番難しかった問題は、死亡時刻がわかっている肉を、死亡してからできるだけ早く手に入れることでした。この問題に関しては、ネットで見つけた「とり農園」さんに親身に相談に乗っていただき、朝6~8時頃に締めた鶏(中抜き)を当日クール宅急便として出荷していただいて、翌日午前中に届けるということで、約26~28時間程度で手元に届くという手配をしていただきました。
古畑教授が著書で引用しているpHによる死亡時刻推定のグラフ
このグラフを見ると、できればもう少し早く、20時間くらい経過で入手したかったところですが、ちょっと技術的に難しいようなのでとりあえず妥協しました。
中抜き地鶏 1,890円
* 今回特別な追加料金なしで妙な依頼に対応していただいたとり農園さんに感謝します
* なお、実験に使わなかった部分の肉はスタッフがおいしくいただきました(お約束)
実験開始まで冷蔵状況ということもあり、多少反応が遅れることはあっても早まることはないと考えられるため、秋谷理論が正しければ少なくとも後半のpHが上がっていくところについてはデータが取れるはずです。
また、ほ乳類ではなく鶏を使うことに関しても、「種差はほとんどない」(だから、モルモットレベルでしかない実験結果を、いきなり下山氏に適用しても問題ない)という秋谷教授のお言葉を信じれば(笑)、問題ないものと考えます。
ということで次回に続きます。