下山事件: 諸永裕司氏のレトリック その2

Wikipediaの「下山事件」の項目で、こんな内容が最近いったん除去されたのに復活されました。

強度の近視でヘビー・スモーカーの下山にも関わらず、旅館滞在中メガネを外し続け、タバコを一本も吸わなかったとの証言もある。

ご丁寧に、「編集内容の要約」欄にはこのようなことが書かれています。

削除された部分は、平成三部作に基づいているのではなく、矢田喜美雄『謀殺下山事件』や下山事件研究会『資料・下山事件』に述べられている事で、事実に反してなどいない。

しかし、実際のところ、『謀殺 下山事件』にも『資料・下山事件』にも、末廣旅館で総裁がメガネを外し続けていたとか、タバコを1本も吸わなかったなどという記述はありません。なんでそういうことになってしまっているんでしょうか?

念のため、末廣旅館の女主人NFさんの供述調書全文を見ておきましょう。

「新評」昭和44年7月号「新評」昭和44年7月号 左に三越の広告があるのはたぶん偶然です(笑)

「新評」昭和44年7月号「新評」昭和44年7月号 (2ページ目)

「新評」昭和44年7月号「新評」昭和44年7月号 (3ページ目)

これは、捜査一課主任だった関口由三氏が昭和44年に雑誌「新評」に発表した「下山元国鉄総裁”自殺”の証拠」という記事の中に掲載されていたものです。これを読んで判るとおり、メガネについては「ロイド様で色は憶えていませんが、眼鏡をかけて」となっていて、それを滞在中ずっと外していたなどという記述はありません。また、タバコについては全く言及がありません。後ろに関口氏の述懐として「今考えると、水を飲んだコップもタバコも喫ったであろうが、いつもの習慣でなんの気にも止めず片付けて全部捨てたり洗ったりしてしまったことを書き落としたのは残念であった」となっています。よしんばこの記述が後付けなので信用できないとしても、「旅館滞在中メガネを外し続け、タバコを一本も吸わなかったとの証言」はこの世に存在しません。

Wikipediaでこの記述を初めて見たときには爆笑してしまいました。あまりにも気に入ったので、今も修正せずにそのまま放置してあります(笑)。

なお、3ページ目にはNFさんの夫、NSさんの供述の要旨が掲載されています。下山事件自殺説紹介ブログさんの方で紹介されていた、NSさんが元特高警察関係者であったという事実が別に隠し立てをするわけでもなく普通に記載されているのがご覧いただけると思います。

今回のエントリ、諸永裕司氏のレトリックとは関係ないじゃないか、と思われるかもしれませんが、実は関係あります。詳細については次回。(引っ張る)

7 thoughts on “下山事件: 諸永裕司氏のレトリック その2”

  1. たびたびすみません、下山事件自殺説紹介ブログ管理者です。旅館の主人の名前ですが、うちのブログでは最初NKと表記して、その後NSなんじゃないかと思って訂正したんですがやはりNKが正しいんでしょうか。正確な読み方が分からないのですが・・・。

  2. すいません。正直、「S」とも読めるということに気付いていませんでした。
    この人の読み仮名が書いてある資料は、少なくとも手元には見あたりませんね…
    一応、そちらのサイトに合わせてこちらも「NS」で統一させていただきます。ご指摘ありがとうございました。

  3. うちのほうに合わせていただいて申し訳ありませんでした。恐縮です。NKとNSのどちらが正しい読みなのか、もし分かったらお伝えします。

  4. ご無沙汰しています、下山事件自殺説紹介ブログ管理者です。このエントリに関連したものをうちのブログで書きました。よろしければご覧ください。管理人さんは、麻生幾氏の週刊新潮に3回にわたって連載された記事は既読ですか? 私は恥ずかしながらつい最近になって初めて読みました。

  5. ご無沙汰しています。週刊新潮の記事は読んでいませんが、『封印された文書』は出版された当時に読みました。正確に言うと、読んだはずですけどかなり以前のことでもあり記憶が定かでなく、末廣旅館主人の件が書いてあったことも覚えていませんでした。今度読み直してみようと思います。
    また、延禎氏に著書があるということも恥ずかしながら知りませんでした。参考になります。
    今後とも、いろいろな資料の紹介をお願いします。

  6. 延禎氏の著書については『葬られた夏』でも言及されていますね。すいません読み飛ばしていたようです。

    『封印された文書』もそうですが、どんな資料も斜め読みしないで、きちんと読み込まないといけないということを痛感しました。

  7. 灯台下暗しという感じで麻生氏のはつい最近まで読んだことなかったのです。平成三部作より早く『封印された文書』を読んでいたら私もきっと気づかなかったと思います。旅館と警察の繋がりを暴いた!って感じで初めて読んだときはインパクトありましたから、平成三部作は。

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