津山事件: 中村一夫『自殺―精神病理学的考察』

掲題の本を読みました。

感想。

「参りました」

津山事件に対する「愛」では人後に落ちるものではないと自負していましたが、この本の著者には負けました。それほど凄い本です。津山事件について書かれているのは本の中の1つの章で、全体で200ページ弱のこの本の中で40ページ程度だけですが、そこに著者の津山事件と都井睦雄に対する想いがぎっしり詰め込まれています。この本のオリジナルは1963年に出版されたものとのことですので、筑波本よりも20年近く前ということになります。

例えば、津山事件と都井睦雄について採り上げた章の冒頭には年表が出ています。
この年表は『津山事件報告書』にも出ていないもので、著者が独自に編集したものと思われます。その内容も「事実」だけを過不足なく採り上げており、ある意味で今後の津山事件研究のリファレンスは筑波本よりもこの本にするべきでないか、という気にすらさせられます。

著者はかなりの現地取材もしています。1960年代前半であり、睦雄を診察したことのある只友医院の院長も当時まだご存命で、直接話をして医師同士として意見交換しています。さらに、祖父が亡くなったのが大正7年7月であることにも言及しており、これも報告書には出ていない、現地へ墓を見に行かないと得られない情報です。そういう、さらっと書いてあることがいちいち深い本です。

新幹線もない、東名高速道路も中国縦貫道もない、東京から現地に行くだけでまる1日、下手をすると片道だけで2日かかるような時代に、専門外のことでこれだけの調査をする。そこに著者の津山事件に対する「愛」が感じられます。

もちろん、本題である睦雄の精神分析も頷かされるものがあります。

このような本があったことを知らずにいた自分の不明を恥じます。著者の中村一夫氏の名前が一般的すぎて、どういう経歴の方かネット検索だけだとよくわからないのですが、もしご存命であれば是非一度お会いしてみたい方です。

(2010年1月26日追記)
中村一夫氏について、この本の奥付には著者紹介が何も書かれていませんが、オリジナルである紀伊国屋新書版(1963年9月30日初版)の奥付によると下記の通りです。

1916年埼玉県生まれ。東北大学医学部卒。東京大学医学部精神医学教室。

1969年に出版された『日本の犯罪学』に論文を寄稿しており、その時には所属が「中村病院」となっていますので、大学をやめて開業された(あるいは親の病院を継いだ)ようです。ただ、埼玉県内に精神科専門の中村病院という病院があるので電話で問い合わせてみましたが、中村一夫なる人物には心当たりはないとのことです。

それと、復刻版がアマゾンで18,000円とかの「コレクター価格」のものしかないようなので、旧版のリンクも貼っておきます。内容はどれも一緒です。

(2011年1月12日追記)
その後の調査で、中村一夫氏の「中村病院」は現在も埼玉県内にある中村病院とは別物であることが判明しました。詳しくはこちらのエントリをご参照ください。

  

9 thoughts on “津山事件: 中村一夫『自殺―精神病理学的考察』”

  1. 最近は「津山事件報告書」や都井家の戸籍謄本など、興味深い記事ばかりでありがたく拝見させていただいています。
    これだけ調べられる管理人様の探究心とバイタリティーを尊敬します。
    報告書は海外に行かなければ読めないとのことですが、是非いつか自分も読んでみたいものです。

    今回の記事に書かれている「自殺」もさっそくAmazonにて注文しました。
    届いたらじっくり読んでみたいと思います。

  2. コメントありがとうございます。

    おそらく、読む人の津山事件についての興味の深さと、この本に対する評価は正比例すると思います。
    興味がない人が見れば、ほとんどが津山事件に関係ない話だし、こんな本を買って損をしたと思うのではないでしょうか。しかし、内容を確認していくうちに、単なる浅薄な興味でこの事件をとりあげたのではないということがわかるでしょう。おそらく、著者はこの章を40頁にまとめるために、本来ならそれだけで1冊の本ができるくらいの記述を推敲して削除していると思います。そこまで読み取っていただけると幸いです。

  3. 八つ墓村も読みましたが、サイコパスや快楽殺人、プロファイルなどに興味をもっていてたくさん本を読みました。ネットなどで津山事件もかなり調べました。
    とにかくすべてにおいて感じるのは、犯人の都井も含めた人の情念の恐ろしさ、育つ環境の重要さなどです。
    都井のお姉さまは本当に最近まで生きておられたのですか?関係が特に深かった女性も?
    驚きです。
    なんと数奇な運命でしょうね。
    この事件に関してはこれからも興味を持ち続けると思います、私もこれからも拝見させていただきます。

  4. はじめまして。
    ブログをいつも興味深く拝見いたしております。

    中村一夫の本、実は私が津山事件を知るきっかけになった本です。
    私が小学生の頃、祖父の家の押し入れで発見しました(祖父は現役の精神科医です)。
    この本の中でも異彩を放っていた(と小学生の私が感じた)のが津山事件の項目でしたので、その部分だけよく覚えています。
    その後、月日は経ち、今度は大学の講義でこの事件を取り扱い、再び津山事件に興味を持ちました。

    管理人様の津山事件への情熱の詰まったブログを読み、ますます津山事件への興味が湧き上がってきました。
    乱文失礼いたします。

  5. 突然の書き込み失礼します。

    このエントリーを読み、自分の知っている情報と少し通じる部分があるので、情報提供をします。

    もしかしたら誤った情報かもしれません。「こういう話があった」程度に受け止めていただいたら幸いです。

    ご存知かもしれませんが、埼玉県内にはかつて、中村病院という精神科がありました。
    しかし、この病院はもう10年ほど前に潰れています。
    この病院は廃墟マニアの間では有名です。現在は埋め立てられているので、現地に行っても収穫はないと思いますが…(その埋め立ての最中に、土砂崩れが起こり、当時ニュースになりました)。
    病院が潰れてしまったのは、院長の病が原因らしいです(ネットの情報です)。

    私の記憶に間違いがなければ、現在、埼玉には中村病院という精神科がもう一つあって、もしかしてお問い合わせされたのはそちらだったのではと思います。

    余談ですが、潰れてしまった方の中村病院は、院内に檻があるような、一昔前の精神病院の様式でした(開業していたのも一昔前のため、当然ですが)。

    潰れた方の中村病院は、「廃墟」や「中村病院」で検索すれば、関連サイトが出てくると思います。

    本来ならばソースをしっかり洗い直してから書き込むべきですが、現在ネットに繋げるものが携帯しかなく、ソースの洗い直しに時間がかかることと、記事を読んでの興奮のため、このような不確かな書き込みになってしまったことをお詫び申し上げます。

    今後の津山事件の新たなるアプローチに少しでも貢献できれば幸いです。

    乱文失礼しました。

  6. これは知りませんでした。凄い情報をありがとうございます。ググって出てくるサイトにある院長のカルテから見ても、こちらの、つぶれて廃墟になっていた方が該当の「中村病院」で間違いなさそうですね。奇しくも津山事件の起こった5月21日にこの情報、何かの因縁でしょうか(笑)。本当にありがとうございます。

  7. 中村一夫さんの「自殺-精神病理学的考察」を図書館で借りて読みました。
    管理人さんが「参りました」という意味がよくわかりました。
    この本が欲しくなりましたので、アマゾンで購入しました。
    この本を教えてくださってありがとうございます。

  8.  精神病理疾患とは現代病の代表的な一つです。鬱・鬱状態・鬱病・統合失調症etcの傾向に診られるのは、睡眠不足です。仕事から来る精神性因子が通常、中性因子が、陽性因子や陰性因子に傾く傾向が非常に高く、自殺行為まで進みます。本来はバランスの採れた食事とバランスの採れた睡眠が大切です。昔、は精神媚薬にビタミン剤を含ませていました。厚生労働省がビタミン剤を、保険適用外にしてから、急激に、精神病理疾患が増加しました。これは精神病理学だけではありません。内科や外科etcの治る人体の分子細胞にビタミン欠乏症から医師たちが新薬を使って症状の経過を診察していますが、ビタミン剤と微量元素が不可欠です。精神病理疾患では、ニューレペチル(オレンジ)4錠・レボトミン2錠ロヒプロール・2錠。
    アリナミンF・50ミリ・2錠を発病した時、服薬する事です。そして、尚且つ、カリウム・カルシウム・ナトリウム・マグネシウム・マンガン・鉄・銅・亜鉛・セレン・三価クロム・モリブデン・ゲルマニウムの微量元素を必須アミノ酸のソフトカプセルで包み前記と一緒に服薬して下さい。もし、自覚症状があったら微量元素の入った必須アミノ酸のソフトカプセルを5錠位服薬して医師に診察を依頼して下さい。

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