「バカンス」の続きです。
こちらの記事へのコメントで、さぶろうさんから「バカンス」について小林信彦氏の本に詳しい説明があることをご教示いただきました。また、別途で、伊吹隼人さんからも東京タイムズ上にバカンスについての記事がある旨、情報をいただきました。
両者の記述をまとめると以下の通りです。
- 「バカンス」とは昭和38年の流行語であり、それ以前には日本語に存在しない言葉だった
- 宣伝文:「バカンス-ことし生まれた新しい言葉です。新しい思想です。レジャーにかわるもの。もっと、がっちりかためて楽しむもの。一本立ちの、堂々たる休暇のことです」
- 「バカンス・ルック」というサマーウエアを売り出した東レをはじめ、デパート、銀行、航空、船舶、観光、映画、TV、ウイスキー、チョコレート、モーターボートメーカー、週刊誌、グラフ雑誌にいたるまで、レジャー産業の23業者がキャンペーンに参加した
- キャンペーンの宣伝費は総額数十億円(注:現在の価値で言えば数百億円か)
- そのようなキャンペーンを「コンビナート・キャンペーン」と呼んだ
- レジャーが時間単位・1日程度の休みなのに対して、バカンスは日数単位、2~3日の休み
- ザ・ピーナッツのヒット曲「恋のバカンス」もこの流れに乗って生まれたヒット曲である
このキャンペーンがいつ頃始まったのかは定かではありません。ただ、東京タイムズが記事が掲載された5月5日の時点でまだ始まって間もないような書き方をしていることと、様々な場所で報じられている「バカンス」が基本的に夏を想定しているものであることから、おそらくは「恋のバカンス」が発売された昭和38年4月頃に開始されたものではないかと思います。
東京タイムズの記事が、
バカンスは「化カンス」か。国民は化かされてはならない。
と記事を締めているように、巨額を投じてキャンペーンを行ったにもかかわらず、「バカンス」という言葉が日本では浮世離れした語感を持つようになったのは実態がなかった(今もない)からでしょうか。
そうなるとやはり、狭山事件の被害者が日記に「バカンス」と書いたときにはその意味をよく理解しておらず、日帰りの短いお楽しみ程度を意味していた、と見るのが妥当ということになると思います。