今朝、WOWOWで「黒い潮」が放映されました。視聴しての感想です。
主人公(平正一氏がモデルで、この映画の中でも当初から自殺説で記事を書いていた)の台詞「そりゃうちの記事は面白くないかもしれん。しかし、あやふやな想像や憶測はただの一行だって書いてない。信頼できる報道だけが詰まってるんだよ」というのがこの映画全体のテーマです。他社が他殺説でセンセーショナルな記事を書く中で、経営陣からも「これでは新聞が売れない」という突き上げを食らいながらも、信念を貫いて事実と信じることを報道する主人公、という位置づけです。
最終的には、映画の中でも史実と同様に、捜査当局は自殺説を公式に発表せずにウヤムヤのうちに事件が終了しました。
一つだけ、映画の中で、過去に主人公の妻が流行俳優と心中したという事実、ならびにそのことを巡ってマスコミが徒にセンセーションを煽るような報道を繰り広げたという事実が、主人公が他社の報道を無視して自殺説で記事をとりまとめていく上で影響したような描写がありました。平正一氏にも同様の話があったんでしょうか。あるいは、映画として盛り上げるためのフィクション部分なのでしょうか。下世話ですがちょっと気になります。
この映画はあくまでも井上靖が書いた小説=フィクションが原作なので、この部分はフィクションだろうとは思うのですが。
地味な内容の映画だったのではないかと思いますが、面白かったですか? それと、ふとっちょの堀崎捜査一課長や朝日の矢田記者は出てきましたか?
下山事件は誰もが納得する形で自他殺がはっきりしているわけではありませんが、それは別として、当時の新聞を読むと、やはり一部の報道は行き過ぎがあったように思います。10年ほど前の松本サリン事件のときもそうでしたが、マスコミのこういう体質は昔から変わらないみたいですね。その都度反省しても、すぐ忘れてしまっているような。そういう意味で「黒い潮」は普遍的なテーマを扱っていますね。つい最近では三浦和義が逮捕されて話題になりましたけど、ロス疑惑報道のピーク時の報道もすごかったと記憶しています。三浦氏の家の郵便物を勝手にレポーターが見たりしていて、黒に限りなく近いグレーなんでしょうが、いくらなんでもそれはやりすぎじゃないかと。
映画として面白かったかというと多少の疑問は残りますね。私が面白く感じたのも下山事件ありきで、映画だけを楽しんだわけでもないと思います。いわゆる社会派サスペンスですから画面も地味ですし。暑くなるとオフィスの中に氷柱を運び込んだりといった、当時の世相がわかる画面の中の細かい描写は結構楽しめました。
ふとっちょの警察現場責任者(「大木田」?)は出てきます。朝日の矢田記者とおぼしき個人は出てこなかったように思います。ライバル紙として「民報(?)」というのは出てきます。ライバル記者を登場させた方が映画として楽しめるものになったような気もしますけど。
以下ネタバレ
主人公の妻の情死について当時のマスコミがあることないこと書いたことについての、
というナレーションがタイトルの由来になっています。
実は、お恥ずかしい話ですが管理人は原作の小説版を未見なのでこのあたりのト書きが小説版そのままなのか、映画オリジナルなのかがわかりません。
感想教えていただいてどうもありがとうございます。地味な社会派サスペンスだと、下山事件自体に興味がないと、面白くないかもしれませんね。映画の中では自殺が真相なのでしょうから、謀略や陰謀もないでしょうし。しかし私としては見てみたかった…つくづく残念です。
ところで、実を言うと私は映画が未見なだけでなく小説も未読なのです。ですので、主人公の妻のこともフィクションなのかどうか知りません。古本は今取り寄せ中で、届き次第読む予定です。ト書きの件、分かりましたらコメントいたします。
小説版読んでみました。似た文章はありましたけれど、全く同じではありませんでした。妻の情死のところは主人公のフィクションぽいですね。
ところで、うちのブログのコメントにも書きましたが、ご遺族には国鉄から扶助金が出ていたようです。
ちょっと海外に行っていたので、回答遅くなってすいません。
小説版の情報ありがとうございます。今読もうと思ったら、図書館で全集で読むのが一番手っ取り早いんでしょうか。と思ってググっていたら、井上靖はこんなものも書いているようです。『暗い透明感−原作者として観た映画「黒い潮」』。
国鉄の扶助金の件も興味深く読ませていただきました。