狭山事件: 『狭山事件 50年目の心理分析』 その2

前のエントリからほぼ2ヶ月がたってしまいました。相変わらずで申し訳ないです。

言い訳をさせていただくと、これだけ間が空いた最大の理由は当方の身辺多忙ですが、もう一つの理由として殿岡さんの新しい本をどう扱うかを考えあぐねていました。

正直なところ、殿岡さんの本にはかなり初歩的な事実誤認が見受けられます。しかし、当初、当サイトでこの本をご紹介するにあたっては「よかった探し」をしていこうと思っていました。なんだかんだ言っても久々の狭山事件関係の、それも推理を前面に押し出した新刊ですから。しかし、読み進めていく上で大変「微妙な」記述が見受けられるため、本当にこれを勧めてよいものかどうか迷いが生じているのが正直なところです。

そのような迷いの一番の原因は、下記の記述です。

かつて、狭山市内を調査したときに参加者の一人が「ここが犯人の家です」と自殺したさんが住む予定だった家を指さした。わたしはびっくりして開いた口がふさがらなかった。(p.229)

この記述は原文ママです。読んでわかるとおり、この記述にはいろいろと不自然な点があります。

  1. まず、現地調査で単なる参加者の一人が「ここが犯人の家です」と断言するというのが不自然です。本当に参加者の一人であれば「ここが犯人と言われているOGさんの家ですか?」という疑問形になるところでしょう。
  2. もし単なる参加者の一人が「ここが犯人の家です」と断言したのであれば、他の参加者や案内者から総ツッコミが入るところです。しかし、そのようなツッコミが入ったという記述はありません。
  3. 従って、普通に読めば、この記述は単なる参加者ではなく、参加者のうちで案内人的な立場を買って出ていた人(従って、他の参加者はその人に対してツッコミにくい人)が「ここが犯人の家です」と発言したと解釈できます。
  4. そのような、狭山事件の現地調査において、「参加者のうちで案内人的な立場を買って出ていた人」として考えられるのは2006年5月の現地調査で案内をした伊吹隼人氏です。当該の現地調査には殿岡氏も参加していらっしゃいました。しかし、伊吹氏がそのようなことを発言する可能性はかなり低いと考えられます。なぜなら、伊吹氏は、OGは「犯人グループそのものではなく、巻き込まれて建設中の新居を利用された」と考えている立場であり、それはこれまでの著作でも繰り返し著述されているからです。念のため伊吹氏本人にも確認しましたが、「そのような(OGが犯人だと断言するような)発言はしていないし、するはずもない」とのことでした。
  5. もし上記の記述が伊吹氏の発言でないとすれば、殿岡氏が参加した他の現地調査においてそのような発言をした、案内人的な立場の「参加者」がいたことになります。しかし、正直なところこれまでの狭山事件関連サイトや殿岡氏自身のメルマガ等を考慮すると、その可能性はかなり低いと考えます。

総じて判断するに、殿岡氏は「OGは犯人グループに利用された」あるいは「OGは犯人グループと関係があった」という主張をしている人を貶めるために、このような存在しない発言を著書の中で記述したという可能性が非常に高いと考えます。

人間のすることですから、考え方に違いがあったり、それに対して反論することは当然あってしかるべきことですし、大歓迎です。しかし、考え方が違う相手を貶めるために、存在しない発言を捏造しているようでは何をか言わんやです。そのようなことをしているようでは、石川一雄さんをに陥れるために証拠や証言を捏造した刑札と、本質的な差異はないのではないでしょうか?

  

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