狭山事件: 三題噺・放置駐車取締りと冤罪と児童ポルノ法

私(本ブログ管理人)は普段、東京都内で原付バイクに乗っています。

2006年から違法駐車取締りの民間委託が始まりました。制度ができた直後、違法駐車取締のおじさんたち(通称緑のおじさん)が一番必死に取り締まっていたのが何かというと、実は原付バイクの違法駐車でした。

以前は、原付バイクの違法駐車はかなり大目にみられていました。特に、車通りがほとんどない、事実上自動車は通れないような私道や細い道については、警察の人手不足もあるのでしょうがほとんど取締りを受けませんでした。ところが、緑のおじさんたちはそういった裏通りの原付バイクに躍起になってシールを貼り付けて回っていました。

道交法上、駐車する車両の右側には、3.5m以上の余地がなければならないことになっています。つまり、道幅3mくらいな裏通りに駐車している原付バイクには、発見した瞬間、即座に違法駐車のシールを貼り付けることができます。これに対して表通りの放置駐車の場合は、いったん発見して警告のシールを貼ったあと、また1時間程度してからその場所に戻って確認し、まだ駐車していることを確認してからでなければ違法駐車のシールを貼り付けることができません。違法駐車のシールを貼り付けた数で報奨金が出る(この部分は事実誤認のようなので削除します)緑のおじさんにしてみれば、交通の邪魔になっている表通りの違法駐車をマジメに取り締まるより、裏通りの原付にシールを貼り付けて回る方が効率的に台数を稼げることになります。裏通りに違法駐車のバイクがずらっと並んでいる様子は、宝の山に見えたことでしょう。

ちなみに、ここに書いたのは、駐車違反の民間委託が始まった直後の状況です。私の実体験で、コンビニに寄るために、わざわざ表通りではなく脇の通りに停めて10分ほど買い物をして出てきたらシールが貼られていたこともありました。それほど、おじさんたちの「脇道バイク取締り」への情熱は高かったのです。今は、二輪車の業界団体から警察への請願などもあってだいぶマシになっています。

この話で何が言いたいかというと、

「法制度を制定するエラい人が、どんなに高邁な思想を持って国会で『適切な運用につとめる』と答弁しても、いったん制度ができてしまえば、現場で実際に取締りを行う担当者にとっては自分の都合や利益が優先されるようになる」

ということです。


話は変わりますが、現在児童ポルノ法改正案が国会で討議されています。私にも一応娘がいますので、児童ポルノの制作や販売を規制し、処罰するという法律の根本の趣旨には賛成です。
しかし、論点の一つとなっている、児童ポルノの「単純所持」を罰するのは明らかに行き過ぎでしょう。「単純所持」が処罰対象となった場合、極端な話ですが、警察が特定のターゲットの家にダイレクトメールとして児童ポルノを郵送し、数日後に家宅捜索してそのダイレクトメールが見つかったら、住民は「児童ポルノ法違反」として逮捕・起訴されることになります。

無邪気に「警察がそんなことをするはずはない」という人もいるでしょうが、これまで様々な冤罪事件で警察がそのようなことをしてきたのは周知の事実です。

例えば、狭山事件では石川一雄さんの自宅の鴨居から被害者の万年筆が発見され、有罪判決の最も有力な物証とされました。しかし、その石川さんの自宅は、万年筆が発見される前に、刑札が2回も徹底的に家宅捜索を行っていました。現在、石川さんの自宅は現地事務所の中に復元されており、そこで万年筆が発見された鴨居の状況を見ることができます。下の写真は、身長174cmの私が普通に立った状態で撮影した写真です。ここに置かれていた万年筆を2回の家宅捜索で発見できなかったとしたら、それは刑札がよほど無能であるという証拠でしょう。

kamoi 石川さんの自宅の鴨居(復元)。身長174cmの本ブログ管理人が普通に立った目線の位置で撮影。置かれているペンは、「発見」された万年筆の状態を再現したもの。ちなみに、右の方にある布は、実際に当時ここに穴があって、それをふさぐためにボロきれを詰めていた状態を再現しており、家宅捜索に加わった刑事が、「ボロきれを取り出して確認したが、そのときに鴨居に万年筆はなかった」と証言している。

おそらく、児童ポルノ法が成立した暁には、この万年筆のような不思議な話が続々と出てくることでしょう。

狭山事件の万年筆の場合、「刑札によって、家宅捜索後に万年筆が置かれたのではないか」という、かなり強い疑惑があるものの立証はされていません。そして、それが立証されたとしたら、万年筆の証拠能力はなくなります。
これに対して、児童ポルノ法の単純所持は、たとえ「これは警察が送りつけてきたものである」ことを立証できたとしても、それとは関係なく持っていること(捨てていないこと)それ自体で罪になります。そこにこそ真の恐ろしさがあります。

さらに言えば、逮捕した後でおもむろに「○○容疑者、児童ポルノ法違反で逮捕」とマスコミに発表すれば、その瞬間にその人の社会的生命を抹殺できるという利点もあります。あとは放っておけばマスゴミマスコミの方々が「ロリコン趣味」「異常性格」などと勝手にあることないこと加熱報道を繰り広げてくれるでしょう。

要するに、児童ポルノ法の「単純所持規制」とは、警察が「こいつが怪しい」と思い込んだ相手を、無条件で逮捕して取調べした上で、裁判なしで社会的に抹殺できる手段を警察に与えることになるわけです。今回の児童ポルノ法改正案が「平成の治安維持法」と呼ばれるのにはそういう理由があります。

そういう手段を与えられた警察や警察関係者がきれい事だけで動くことを期待するのは、緑のおじさんたちが裏通りの駐車原付という宝の山を目の前にして自重するのを期待することと同じです。わざわざ歩き回って邪魔になっている駐車車両を探し、1時間後に同じところに戻ってこなくても、目の前の単車に即時にシールを貼るだけで一丁上がり。わざわざ証拠調べをして正当な逮捕手続をとらなくても、犯人と思い込んだ相手に児童ポルノのコピーを郵送して家宅捜索するだけで、相手を逮捕し、合法的に拘留・取調べできる。そういう誘惑に逆らえるような聖人君子ばかりだったら、この世はさぞやつまらないだろうし、住みにくいことでしょう(笑)。


(追記)コメント欄でも書きましたが、この問題に関しては私(本ブログ管理人)は社民党の保坂展人議員を勝手に応援します。

(追記その2)念のため注記。駐車違反の件について、私は別に「裏通りの原付の駐車違反を取り締まるのがおかしい」とは言っていません。法律違反であることは確かですから。実際に邪魔になっているところもあるでしょうし、たとえば駅前の放置駐車などはどんどん取り締まるべきだと思います。しかし、現実的にバイク用駐車場がほとんど存在しない状態であるのに取締りのみが先行したこと、明らかに裏通りを狙い撃ちしたことについては私は今でも不満を持っています。ちなみに、裏通りを狙い撃ちしたと断言できるのは、ある時期以降、どうしても30分程度バイクを停める必要がある場合には、どんなに邪魔になっても表通りに堂々と駐車するようにしたからです。それ以降は一度も、警告のシールすらも貼られたことがありません。
(追記その2.5)いろいろ調べると、駐車監視員の人は歩合制ではないようですね。ただし、そうは言ってもサボってると思われないためには一定の結果=台数は出す必要があったと思われ、そのために「効率化」を追求するインセンティブが働いていたと思います。そうでなければ、裏通りへの集中取締りの説明がつきませんから。

(追記その3)児童ポルノ法の単純所持については、「正当な理由なくして」所持している場合に罰せられることになっているのだから、他人が送りつけてきたもので罪に問われることはない、という人もいるでしょう。しかし、与党側の答弁を見ている限り、たとえば法律施行前に合法的に入手したものであっても、「捨てていない」ことが罪になるという解釈のようです。「捨てようと思っていたけど、タイミングを逸した」「1週間前に送られてきて、その後今まで多忙でゴミ出しの時間に間に合わなかった」「2日前に送られてきて、こんなものが入っているとは気づかなかった」………どこまでが「正当な理由」なのでしょうか。そもそも、上でも書いたように、警察としては逮捕して拘留して取り調べを行うこと、そしてそれを発表することで本来の目的の99%は達成できます。そして、現行犯ですから、経緯はともかくそこに児童ポルノがあるだけで逮捕自体は可能になるわけです。

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6 thoughts on “狭山事件: 三題噺・放置駐車取締りと冤罪と児童ポルノ法”

  1. 怖い話ですね…
    この可能性があることをもちろん承知の上で議員さんたちは進めているんですよね、きっと。
    この問題点を議場の論題にしてもらうにはどういう手段があるんでしょうか?
    黙っていたら冤罪被害者を生み出す機会(自分が陥れられる可能性も含めて)をみすみす見逃していることになりますよね…。
    三権分立って、そんなに難しいことなんだろうか…

  2. コメントありがとうございます。

    たぶん、「承知の上で進めている」というより、一部の推進派の方々にとっては私が書いたような権限を捜査機関に与えることこそが目的なのでしょう。

    あと、よく言われることですが、新しい法律を制定するときには、必ず天下り先を作ろうとする動きがあります。今回の児童ポルノ法改正についても、改正が成立したら、警察主導で出版物の倫理審査をする機関(映画に対する「映倫」のようなもの)を設立する動きが出てくると思います。「検閲だ」という反発もあるでしょうが、そうやって反発するような出版社には、それこそ児童ポルノ法違反容疑で強制捜査をして締め上げていくでしょう。当然、そのあたりの実運用や、天下り先にどのレベルのOBを何人押し込めるかまで考えて法律は作られているはずです。ちょうど、駐車違反の民間委託が、警察の天下り先強化のために進められたように。

    結局のところ、どんなにきれいごとをならべても、実際に法案を作ったり規制を進める原動力になるのは、それを推進する担当者個人の「利益」です。そして、それは冤罪を生み出す原動力でもあります。犯人逮捕に勲功を上げて出世したい。退官後に出版物倫理審査機関に天下って何千万円かの給料と退職金をもらいたい。それは陰謀論でもなんでもない、人間として当然の行動といえるでしょう。

    私が知る限りで、この問題に対して一番マトモな対応をしている国会議員は社民党の保坂展人議員だと思います(他に同様の活動をしていらっしゃる国会議員がいればご教示ください)。社民党の他の政策に関しては個人的に全く同意できないものが多いのですが、少なくともこの問題に関してだけは保坂議員を応援していきたいと考えています。

  3. 警視庁記者クラブと情報操作

    この内容を読んで、ある種の怖さというか、時代錯誤というか、何とも表現できない感情が出てきました。
    大手企業と呼ばれる企業には広報部があり、関係省庁があり、そしてそこには少なからず情報操作があり・・(それはある意味、掲題の件の縮図かと)
    政権が代わればすべてが変わるわけではないのでしょうが、(政権交代があるかどうかもわかりませんが)近代国家としての前進(良化)が少しでもあることを期待します。そして、真実を記載した非公開資料が開示されることを・・圧力と権力の狭間に陥れられた人の人としての尊厳が回復されることを・・。

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